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眠りからさめると、もう日は高く上っていた。しまった、寝過ごした。中村さんは布団の上に起きあがると、枕元に置いたメガネを手探りしていたが、ふと手を引っこめて、もう一度布団の中に足をそろそろと戻した。なあに、急いで起きるこたあない。
六十五歳で会社を定年退職して、もう一年近い。退職したときはもっと働けるぞと不満さえ感じたが、今や中村さんはすっかり引きこもっている。定年になったら一緒に旅行に行けるね、と楽しみにしていた奥さんは、去年の夏、どこへ行くまもなく、あっけなく亡くなってしまった。脳出血というのは残酷なものだ。
隣の市に嫁いだ娘には、まだ手のかかるやんちゃ盛りの双子がいる。
「おとうさん、身のまわりのことなんてしたことないでしょ。ヘルパーさんを頼みなさいよ。わたしもそうそう来られないよ。」
「なあに、ヘルパーなんて。まだまだ人の手を借りなくてもやっていけるさ。」
口だけは威勢よくタンカを切って、中村さんはひとり暮らしを始めたのだった。
本当によくがんばったと思う。洗剤の箱に書いてある注意書きとにらめっこしながら洗濯物と格闘した。食事も最初は歩いて十五分のスーパーで弁当を買っていたが、今は新しい小さい電気釜を使って、ご飯は自分で炊いている。